2019年秋、Appleがあの伝説的な「チーズグレーター」ことMac Proを発売した直後、ガジェット界隈を騒がせた製品があります。「Dune Pro」——Mac Proにそっくりなデザインのシルバーのタワー型PCケースです。
「Mac Proのデザインで自作PCが組める。しかも279ドル」という触れ込みに、4,293人が心をつかまれました。
しかし6年以上が経った2026年現在、4,293人のうちケースを受け取ったのはわずか約26人。調達した**130万ドル(約1億9千万円)**のほとんどは行方不明。創業者は消息不明——という衝撃の結末を迎えています。
Dune Proとは何だったのか
Dune Proを手がけたのは米国ウィスコンシン州ケノーシャを拠点とするDune Case LLC。創業者兼CEOはAlexander C. Gomez。
製品の内容はこうでした。
| 項目 | スペック | ||
|---|---|---|---|
| 寸法 | 218mm × 450mm × 529mm | 素材 | 3mm厚アルミニウム+ステンレス製ハンドル・フット |
| 対応マザーボード | Mini-ITX / mATX / ATX / E-ATX | ||
| GPU クリアランス | 最大380mm(RTX 2080 Ti対応) | ||
| 水冷対応 | 最大360mmラジエーター(フロントマウント) | ||
| ストレージベイ | 2.5インチ×5 / 3.5インチ×11 | ||
| 外観オプション | 「Dice Y」前面カバー(Mac Pro風チーズグレーター型・防音効果) | ||
| 支援価格 | $279 USD |
Engadget、9to5Mac、PC Watchなど国内外のメディアが「Mac ProのデザインをPCへ」として一斉に取り上げ、発表から11日後にはIndiegogoキャンペーンが始まりました。
情報
このキャンペーンは当初「Kickstarter予定」と報じられましたが、実際はIndiegogoで行われました。Indiegogoは「達成額に届かなくても資金を受け取れる」フレキシブル方式を採用しており、資金が集まった瞬間に運営者が受け取れる仕組みです。
順調に見えたキャンペーン
2019年11月、キャンペーンは**総額1,304,142ドル(約1億9千万円)**を調達して終了。自ら「クラウドファンディング史上最も成功したPCケース」と宣言しました。
遅延の連鎖:一度も守られなかった納期
当初の出荷予定は2020年1月でした。
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最初の納期:破られる
「金型の調整が必要」として延期。支援者への最初のアップデートが届く。
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春節後→COVID-19を理由に再延期
中国の製造工場がCOVID-19の影響で停止していると説明。誰もが「それはしかたない」と思った。
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理由が変わりながら再延期が続く
コロナ禍の長期化・素材調達の問題など、理由を変えながら延期が繰り返される。
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「600台を物流業者に引き渡した」と虚偽報告
GomezはIndiegogoに対して「最初の600台は物流業者に引き渡し済み」と申告。これを根拠にプロジェクトステータスを「出荷中」に変更させ、Indiegogoから次の資金の払い出しを引き出す。この申告は後に虚偽であることが判明する。
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「追加課金」スキームの開始
Gomezが独自のShopifyサイトを立ち上げ、既存の支援者に追加料金を要求。
最大の「闇」:既存支援者への二重課金
2021年12月、Gomezは支援者に向けてこんな案内を送りました。
注意
追加課金の内容
- $99 USD:コンテナ船による「優先出荷」
- $349 USD:クーリエによる「2週間以内の高速出荷」
既に$279を支払っている支援者に対して、最大$349の追加支払いを要求しました。
500人以上の支援者がこれに応じ、追加徴収額の合計は約9万ドル以上に上りました。
しかし$349の「2週間以内の高速出荷」コースを申し込んだ93人のうち、実際にケースが届いたのはわずか15台。しかもそのケースは全て前面カバー「Dice Y」が欠品した状態でした。
この時期、末期の病気を抱えた支援者が「正確な出荷時期を教えてほしい」と問い合わせたところ、Gomezは「信念を持って(take a leap of faith)$350を追加で払ってください」と返答したと複数の証言が残っています。
崩壊:消えた130万ドルと逃亡
2022年初頭、元従業員が支援者コミュニティのDiscordに現れ、衝撃の事実を暴露しました。
「Gomezはバリ島に逃亡した」
元従業員・支援者の証言によると、Gomezは調達資金を以下に費やしたとされています。
- モルディブ・バリ島などへの豪華旅行
- 高級スポーツカーの購入
警告
Dune Pro の最終結果
- 調達総額:$1,304,142 USD(約1億9千万円)
- 支援者数:4,293人
- 実際に出荷されたケース:約26〜27台(うち全て欠品・不具合あり)
- ケースを受け取った支援者の割合:全体の約0.6%
2022年1月26日、Indiegogoはキャンペーンを正式に停止。公式声明として「資金の大半はすでにキャンペーンオーナーに支払い済み。Indiegogoが保留していた残額は支援者への返金に充てた」と発表しましたが、支援者の大半には返金されませんでした。
Gomezのその後については、ウィスコンシン州ケノーシャ郡の収監記録データベースに同姓同名が確認されていますが、Dune CaseのGomezと同一人物かどうかは未確認です。
被害者たちの戦い
怒り心頭の支援者たちは自衛のためのサイトを複数立ち上げました。
- dunescam.com — Gomezの行動を記録した専用告発サイト(被害者が作成)
- duneclassaction.com — 集団訴訟を組織しようとした弁護士チームのサイト
- Facebook グループ「Dune Case Scam」 — 被害者コミュニティ
Trustpilotの「Dune Case LLC」ページには66件のレビューが集まり、平均1.2点(5点満点)。コメントはほぼ全て「詐欺」「金を持って逃げた」「2年以上待ったが届かない」という内容です。
FTC(米国連邦取引委員会)・FBI・Indiegogoへの通報も行われましたが、2026年現在、Gomezの逮捕・返金の報告はありません。
2026年現在の状況
| 項目 | 状況 |
|---|---|
| Dune Case LLC | 事実上消滅。ウェブサイトは無関係の別サイトにリダイレクト |
| Alexander C. Gomez | 2022年以降、公式な所在確認なし |
| dunecase.com | 第三者ドメインが別サイト(reverseparkinsons.net)にリダイレクト |
| Discord サーバー | 放棄・更新停止 |
| Shopify ストア | 閉鎖 |
| クラスアクション | 組織化が試みられたが法的勝訴・回収の報告なし |
| 未回収支援者 | 4,293人のうち推定4,260人以上が回収不能 |
この事件から学べること
Dune Proの失敗は「製品が作れなかった」のではなく、最初から誠実に作る意思がなかった可能性が高いという点で、通常のクラウドファンディング失敗とは一線を画します。
ヒント
クラウドファンディング支援前のチェックリスト
- 実物プロトタイプがあるか:レンダリング画像だけのプロジェクトはリスクが高い
- 運営者の実績があるか:過去に製品化・発送を成功させたことがあるか
- 製造拠点が実在するか:工場との契約・提携を証明できるか
- プラットフォームの払い出しルールを確認:Indiegogoのフレキシブル方式は「達成前でも受け取れる」
- 金額が大きすぎないか:「絶対に損しない少額」の範囲にとどめる
- 支援者コミュニティの反応を見る:既に不審な点を指摘している人がいないか
Dune Proのケースでは、これらすべての警戒サインが後から見ると揃っていました。
Dune Proは「Mac ProそっくりのPCケース」として生まれ、130万ドルを集めたクラウドファンディング詐欺として歴史に刻まれることになりました。4,293人の夢は、アルミのチーズグレーターに変わることなく消えました。
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